Aberlour
上品なシェリー風味が持ち味、「アベラワー」

アベラワーは、まるで心地いい春風を思わせるようなウイスキーです。フランスでは特に人気のあるシングルモルトで、そのせいかどことなく軽妙洒脱なイメージがありますね。かつてはオフィシャルボトルが、ブランデーを思わせる緑色のフロストガラスのボトルに詰められ、ラベルには大きく「VSOP」をもじって「VOHM」(ベリーオールドハイランドモルト)などと表記されていた時代もありました。

風味にはバランスのとれたシェリーのニュアンスがあり、レーズンや蜂蜜、生クリームなどを連想させます。ボディは軽すぎず重すぎず、滑らかなテクスチャーがあり、そしてしっかりとした存在感を主張しています。

アベラワー蒸留所のあるアベラワー村は、スペイサイドの中心、ベンリネス山の湧き水を水源とするラワー川のほとりにあります。村の周囲は、峻険な頂に覆われたベンリネス山を始めとした、雄大な山々の風景が取り囲んでいます。アベラワー蒸留所が仕込みに利用する水は、ベンリネス山に降る豊かな雨と雪が地下の花崗岩とピートで濾過されたとても清らかな軟水です。アベラワーのシングルモルトが持つ滑らかな舌触りは、この水のお陰だとも言われていますね。

ここ20年ほどのアベラワーのラベルには、どのバージョンにも共通してあるイラストが描かれています。ちょっと見には、まるでお墓のイラストのようにも見えますが、これは「聖ドロスタンの井戸」です。キリスト教の宣教師だった聖ドロスタンが、地元民の洗礼にこの井戸の清らかな水を使っていたという言い伝えがあるのです。

アベラワーにはスタンダードの10年を始め、12年ダブルカスクマチュアードや、15年、そして16年ダブルカスクマチュアードなど、豊富なライナップがあります。その中にややずんぐりしたボトルに小さめのラベルが貼られたアブナ(a'bunadh)という製品があります。アブナとは、“起源”を意味するゲール語なのですが、アブナックと表記されていることも多いですね。でも語尾の“dh”は発音しないのが正しいようです。

このアブナは、オロロソのシェリー樽で寝かされた原酒のみが、チルフィルター(低温濾過)をかけずにカスクストレングスでボトリングされてあります。ボトルのラインナップの中では特に飲み応えがあり、私がもっとも好きなアベラワーです。ただ、春風のようなこのモルト本来の軽やかさはなく、アブナはアベラワーらしくないアベラワーと言えるのかもしれませんね。


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