Ardbeg
甘い土と煙が舌を包み込む、「アードベッグ」

シングルモルトの聖地とも呼ばれるアイラ島。そのアイラ島のモルトの中でも1、2を争う人気を誇り、多くのモルトファンから熱狂的に支持されているのがこのアードベッグです。その人気の秘密はいったいどこにあるのでしょう?

舌を包み込む土っぽいテクスチャーと、まるで液体の煙を飲んでいるかのようなスモーキーさ。アードベッグの魅力を簡単に言い表わすならば、そんな感じでしょうか。アードベッグを口に含んだ途端、潮風、リンゴ、草原、漁船、オイル、塩素、タール等々の風味が次々に押し寄せてきます。特に1970年代前半に蒸留された熟成期間の長いアードベッグには、とりわけ複雑で重厚な風味があり何物にも代えがたい魅力が備わっています。

Ardbegとは、ゲール語で「小さな丘」もしくは「小さな岬」を意味します。ただ、蒸留所の敷地内は小さな丘とも呼べないような低く平坦な土地ですし、また地図で見た限りにおいては該当する岬と呼べるような地形も見当りません。はたしてどちらの意味が正しい由来なのでしょうね。

蒸留所があるのは、アイラ島の南岸です。アイラの綴りは“Islay”ですが、地元の人々はアイレイとは発音しません。スコットランド本島の西側、すなわち大西洋にアイラ島は浮かんでいます。日本の佐渡島ほどの小さな島なのですが、8つもの蒸留所があり、それぞれが個性的なウイスキーを造っています。この島の南岸には有名な3つの蒸留所が並んで建っていますが、そのもっとも東に位置するのがアードベッグ蒸留所です。ちなみに他のふたつはラフロイグとラガヴーリンですね。

蒸留所の歴史は古く、最古の記録は18世紀にまで遡ります。ですが蒸留所のオフィシャルな見解では1815年、すなわち蒸留所の操業をビジネス的に軌道にのせたジョン・マクドゥーガル氏がオーナーになった年を創業年としていますね。20世紀以降、アードベッグ蒸留所のオーナーは何度も変わり操業と閉鎖を繰り返してきましたが、1997年にグレンモーレンジ社がオーナーとなってからはコンスタントに操業されるようになりました。なお、2004年以降は、ルイヴィトン・モエ・ヘネシー社によって運営されています。

アードベッグは、私がもっとも好きなシングルモルトでもあります。この短い紹介記事でアードベッグの魅力をすべて伝えきるのはとても無理ですし、ぜひじかに味わって、その魅力に触れていただきたいと思っています。少しでも多くの方にこのウイスキーの素晴らしさを知っていただくことが、私の願いです。


Copyright © 1998- Muneyuki Yoshimura. All rights reserved.