Ardmore
武骨さと優しさの両面が魅力、「アードモア」

決して華やかなイメージはなく、むしろ生真面目で不器用、そんな言葉が思い浮かぶシングルモルト。それがこのアードモアです。ブレンデッドウィスキー「ティーチャーズ・ハイランド・クリーム」のメイン原酒としても知られていますね。しかしアードモアは決して知名度が高いシングルモルトではありません。それはオフィシャルボトルがほとんど発売されてこなかったことが最も大きな理由でしょう。でもその個性的なキャラクターにはファンも多く、今なお根強い人気を誇っています。

アードモア蒸留所は、石炭直火方式という伝統的な加熱法を頑なに守っていた数少ない蒸留所のひとつでした。しかし2001年には、今日主流となっているスチーム方式に変更されています。先日新しくリリースされたオフィシャルボトル「トラディショナル・カスク」では、そのスチーム方式で蒸留された原酒が使用されています。試飲をしましたが、石炭直火方式だった頃のアードモアとは別のシングルモルトだといっても過言ではないほど、優しいキャラクターに変わっていますね。しかし現在出回っているアードモアの多くはまだ石炭直火方式だった頃のものですので、今回はそちらにフォーカスし紹介をしたいと思います。

風味は適度にピーティなのですが、そのさりげなさにはアイラモルトのようなこれ見よがしな感じはありません。中にはスモーキーに仕上がっているボトルもありますが、それでもさじ加減はよく心得ているなという印象があります。また比較的苦味が強く、飲み手に対して媚びない潔さも旧来のアードモアの魅力のひとつといえるでしょう。

アードモアというシングルモルトについては、一般的に「オイリーでボディの厚い食後酒」だといわれていますが、私の経験ではむしろボディは軽く、ドライでさらっとしたテクスチャーであることが多いです。風味に武骨さはあるものの、フィニッシュが優しくフェイドアウトも早いため、どちらかといえば食前酒向きのシングルモルトだともいえますね。

蒸留所があるのはハイランド地方の東部、アバディーンシャーにあるケネスモントという村です。アードモアは一般的には東ハイランド産という分類がされていますが、ほぼスペイサイド地方との境界線上に位置しているためスペイサイド産として分類されることもあります。敷地の北側にはアバディーンとインヴァネスとを結ぶハイランド鉄道が通っていて、北東の方角にはノッカンディの丘を望むことができます。Ardmoreとは、ゲール語で「大きな丘」を意味しますが、それはきっとノッカンディの丘を指しているのでしょう。

石炭直火方式で蒸留されたアードモアは、今後ますます希少になっていきます。今のうちにぜひ飲んでおきたいシングルモルトのひとつです。


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