Auchentoshan
伝統の3回蒸留製法、「オーヘントッシャン」

オーヘントッシャンの最大の特徴は、今日でも伝統的な3回蒸留で造られている唯一のスコッチであることです。そのため、口当たりの柔らかなすっきりとした風味のシングルモルトに仕上がっています。しかしオーヘントッシャンの特徴は風味が軽い点だけではありません。清々しい草原やミルキーな洋菓子を連想させるアロマや、果実のようにエステリーなフレーバーもまたこのモルトの持ち味です。また瑞々しい草花のような余韻が、心地いいフィニッシュを演出してくれます。

ところでオーヘントッシャンという言葉の語感ですが、耳慣れないと何とも奇妙に感じられますね。故マイケル・ジャクソン氏が「まるで魔術の呪文のようだ」と、彼らしいユーモアのある表現で語っていたことが懐かしく思い出されます。しかし実際には“Auchentoshan”という言葉は魔術とはまったく関係がなく、ゲール語で“野原の片隅”を意味します。そしてオーヘントッシャンは、その名にふさわしい草原の香りを持つウイスキーなのです。

蒸留所は、スコットランド最大の都市グラスゴーから北西に約10キロメートルほど離れたダルミュアという町にあります。かつてグラスゴー市内や近辺で栄えた蒸留所はすっかり姿を消してしまい、やや離れた場所にあるオーヘントッシャンだけが残りました。エディンバラから20キロメートル離れているグレンキンチーが“エディンバラ・モルト”と呼ばれることを考えれば、これからはオーヘントッシャンを“グラスゴー・モルト”と呼んでもいいかもしれませんね。

モダンで洗練されたイメージのあるオーヘントッシャン蒸留所ですが、歴史は古く1800年頃には操業されていたという記録があります。ただしライセンスを取得したのは1823年ですので、オフィシャルな見解ではその年が創業年となっています。なお1994年からは、日本のサントリーによってオーヘントッシャン蒸留所は運営されています。

ローランドモルトに代表されるような、風味の軽いモルトはビギナー向けだという話をよく耳にします。クセがなく、不慣れな人でも受け入れやすいからという理由ですね。その説にも確かに一理はあるのですが、ある程度は飲みつけた人ではないとデリケートな風味のよさはわからないものです。オーヘントッシャンの繊細な美味しさは、むしろベテランのモルトファンにこそ楽しんでいただきたいなと私は考えています。


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