Aultmore
スぺイサイドの知られざる佳酒、「オルトモア」

果実風味が豊かで糖蜜のような甘さをもつスペイサイドの銘酒、それがこのオルトモアです。知名度は決して高くありませんが、知る人ぞ知る完成度の高いシングルモルトのひとつといえるでしょう。ブレンダーからの評価も高く、VAT69やデュワーズ、ジョニーウォーカー黒ラベルといったブレンデッドスコッチの原酒として利用されています。特にデュワーズでは重要なメイン原酒のひとつとなっていますね。

オルトモア蒸留所は1895年に創業されました。Aultmoreとはゲール語で「大きな小川」を意味し、その蒸留所名は近辺を流れるオーヒンデラン川に由来するといわれています。1923年以来、ジョン・デュワー&サンズ社によって運営されてきましたが、1998年にラム酒のメーカーとして有名なバカルディ社の傘下に入り現在に至っています。

蒸留所があるのは、キースの町から北西に4キロメートルほど離れた場所です。周辺にはモス(moss)と呼ばれる泥炭地が広がっていて、仕込み等に用いる水もフォギー・モスという名の泉から引いています。そのためか、ボトルによってはピーティなニュアンスを感じさせるオルトモアもありますね。

オルトモア蒸留所は、廃液処理のパイオニアだったことでもよく知られています。1952年、廃液を加工して「ダークグレーン」と呼ばれる家畜用の飼料を作り出すことに成功し、長いこと未解決だった環境汚染の問題を解決しました。この画期的な技術はその後広く普及し、多くの蒸留所でダークグレーン工場が建設されることになったのです。そんなオルトモアは、エコロジーという概念を形にした最初の蒸留所だったといえるのかもしれません。

またこの蒸留所は、かつて蒸気機関を動力として使用していた時期がありました。1898年に導入されて以来、なんと修理するとき以外は24時間体制で稼働させていたそうです。しかし1970年に規模の拡張が行なわれ、それと同時に撤去されました。歴史的な資料としても貴重なその古い蒸気機関は、現在でも大事に保存され蒸留所に展示されています。

オルトモアは、ボトラーズものでも比較的はずれが少ないという印象を私は持っています。玉石混交なスペイサイド地方の蒸留所の中では、間違いなく「玉」だといえますね。もちろん大好きなスペイサイドモルトのひとつです。


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