Balmenach
通好みなスぺイサイドの逸品、「バルメナック」

麦芽の香りが豊かで複雑なコクが持ち味のスペイサイドモルト、それがこのバルメナックです。キャラクターには目立った特徴こそありませんが、いぶし銀のような魅力がこのシングルモルトにはあります。ボディが厚くて飲みごたえがあるため、食前よりはむしろ食後に楽しむウイスキーだと言えますね。

バルメナックはかつてはディアジオ社が所有する蒸留所でした。その頃は「花と動物シリーズ」としてオフィシャルボトルが出されていましたので、比較的容易に入手することができました。しかし現在のオーナーであるインヴァー・ハウス・ディスティラーズ社(インターナショナル・ビヴァレッジ・ホールディングス社系列)からは、残念ながらオフィシャルボトルは発売されていません。バルメナックという銘柄にちょっと地味なイメージを感じてしまうのは、きっとそんなことも理由なのでしょう。

バルメナック蒸留所があるのは、スぺイ川上流の町グランタウン・オン・スペイから7キロメートルほど下ったところにあるクロムデールという村です。スぺイ川の本流を川沿いにたどると、最も上流に位置しているのがこのバルメナック蒸留所なんですね。仕込み等に用いられる水は、クロムデール川から引いています。なお、この近辺は周囲が丘陵に囲まれた盆地になっており、古くから盛んに密造が行なわれていた地域としても知られています。

1824年、トミントゥールの谷から移住してきたマクレガー3兄弟のひとり、ジェームズ・マクレガー氏によって蒸留所は創業されました。彼が密造から足を洗い、公式なライセンスを取得したいきさつは、彼の子孫であるロバート・ブルース・ロッカート卿が書いた「スコッチ」(1951年)という本に記されています。それによると、1823年にマクレガーの農場を訪れた税吏が盛大な歓待を受け、それに気をよくした税吏は密造が行われていることに気づいていながらもそのことには触れず、帰り際に「もし私があなただったら、ライセンスを取るだろう。」という忠告を残したそうです。マクレガー氏はそれに従い、翌年にライセンスを取得しました。

現在、インヴァー・ハウス・ディスティラーズ社は5つの蒸留所を所有していますが、オフィシャルボトルが出されていないのはその中でバルメナックのみです。そんなインヴァー・ハウス・ディスティラーズ社ですが、実際にはバルメナックを“旗艦”蒸留所として位置付けているとも言われています。近い将来、オフィシャルボトルが発売されることを大いに期待したいものです。


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