Ben Nevis
オレンジと八つ橋の風味、「ベン・ネヴィス」

ベン・ネヴィスはオレンジマーマレードや、京都の和菓子の八つ橋を連想させるシナモン風味が印象的なシングルモルトです。ベン・ネヴィス蒸留所の創業は1825年と比較的古く、1989年からは日本のニッカ・ウヰスキーによって運営されています。

ベン・ネヴィス蒸留所があるのは、西ハイランドの中心地であるフォート・ウィリアム。蒸留所名は、南東の方角にそびえるベン・ネヴィス山の名にちなんで命名されました。ベン・ネヴィス山は標高が1,343メートルあり、英国一高いことでも知られる山です。仕込み水は、山頂から流れてくるアルタ・ヴーリン川から引いています。

蒸留所の創業者は、地元フォート・ウィリアムの人々から「ロング・ジョン」の愛称で親しまれていたジョン・マクドナルドという人物。身長193センチメートルの大男だったためそう呼ばれたそうです。またロング・ジョンというブランド名のブレンデッド・スコッチがありますが、これは彼のこの愛称にちなんでいます。なお、現在のロング・ジョンはベン・ネヴィス蒸留所とは袂を分ち、ライセンスはベン・ネヴィス蒸留所とは関係のないロング・ジョン社が所有しています。

1944年にジョセフ・ホッブズという事業家が蒸留所のオーナーになりますが、彼は面白い試みをしました。従来のポットスティルの横にグレーンウイスキーを製造するパテントスティル(連続式蒸留器)を設置したのです。この試みは結局失敗に終わり、パテントスティルは2年後に撤去されてしまうのですが、その当時製造されたグレーンウイスキーは、シングルグレーンとしてインディペンデントボトラーから発売されたこともありました。

かつてのベン・ネヴィスはクセがちょっと強すぎて、好き嫌いの分かれるシングルモルトでした。やや野暮ったい風味は個人的には嫌いではありませんでしたが、日本ではあまり人気のないシングルモルトのひとつだったように思います。しかしニッカが買収してからは、その傾向が薄らいだように私は感じています。卓越したニッカの技術が、なし得た結果なのかもしれません。ただ、確かにバランスは向上したのですが、ベン・ネヴィスならではの個性は薄らいでしまったとも言えるのです。

ニッカが買収する以前に蒸留されたベン・ネヴィスは、ちょっと高価ですが現在でも入手は可能です。在庫があるうちにぜひ飲んでおきたいシングルモルトのひとつです。現行品と飲み比べてみるのも興味深いですね。

なおベン・ネヴィスというウイスキーは、同じブランド名でブレンデッドも製造されています。ですので、シングルモルトのベン・ネヴィスを購入するときには注意が必要です。


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