Benriach
甘い麦芽と熟した果実、「ベンリアック」

スペイサイドのベンリアックは、麦芽の甘さと熟した果実のような風味が持ち味のシングルモルトです。長く寝かせたものの中にはカルヴァドスのようなアロマを放つものもあります。ボディは軽めでフレーバーはとても華やか、大変スペイサイドモルトらしい風味に仕上がっていますね。

ベンリアック蒸留所は銘酒ロングモーンと同じエルギン地区にあり、その弟分としても知られるシングルモルトです。ただ、優秀な兄の陰に隠れることに甘んじ、しかも入手が比較的困難だったためにかつてはちょっと地味な存在だったこともまた事実です。手に入りにくかった最大の理由は、1994年までオフィシャルボトルがリリースされなかったことです。ベンリアックのウイスキーのほとんどは、自社(シーバス・ブラザーズ社)のブレンデッドの原酒として使用されていました。

そう言えば、シーバスリーガルやサムシングスペシャルを始めとするシーバス社のブレンデッドスコッチは、どれもまろやかでフルーティですよね。それらのキャラクターには、ベンリアックが少なからず影響を与えているとも言えるのです。

2004年の4月、そんなベンリアック蒸留所に転機が訪れます。かつてバーン・スチュワート社でマネージング・ディレクターを務めていたビリー・ウォーカー氏、南アフリカのイントラ・トレーディング社のジェフ・ベル氏、そしてウエイン・キースウェッター氏の3名が、南アフリカを拠点としたザ・ベンリアック・ディスティラリー社を発足し、ベンリアック蒸留所を買収しました。同社はベンリアックを「シングルモルト」として販売する方針を打ち出し、1966年や1970年といった古いヴィンテージを含む興味深い製品を次々とリリースしてきました。

ところでベンリアックは、BENRIACH と綴ります。本来ワンワードの蒸留所名なのですが、ベンリアック・ディスティラリー社は、「BenRiach」をオフィシャルな表記として採用しています。ちょっとユニークな興味深いこだわりですよね。ちなみに同社は、2008年の9月にグレンドロナック蒸留所(GLENDRONACH)も買収しましたが、ニューボトルのラベルには「GlenDronach」という同じパターンの表記がされてあります。

新しいオーナーなってからというもの、ベンリアックのボトルはまるでこれまでの鬱憤を晴らすかのように矢継ぎ早にリリースされています。今、もっとも勢いを感じるシングルモルトのひとつです。


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