Benromach
リンゴと麦のハーモニー、「ベンローマック」

ベンローマックは、スペイサイドのフォレス地区にある唯一の蒸留所です。この地区ではかつてはダラス・ドゥーという蒸留所も操業していましたが、現在はウイスキー博物館となっていますね。

ベンローマック蒸留所は、1983に一旦閉鎖されました。ポットスティル等の蒸留設備も撤去され、この蒸留所がよみがえることはもうないだろうと誰もが思っていたことでしょう。しかし1992年に、インディペンデントボトラーのゴードン&マクファイル社がベンローマックを買収し、1998年には見事に蒸留所を復活させたのです。ちなみに、ベンローマックの創業は1898年でした。恐らくは意図的に設定されたのでしょうが、蒸留所の復活はちょうど創業100周年と重ね合わせた形になりました。

現在はとても活気のあるベンローマックですが、その半生は決して順風満帆とはいえず、創業以来幾度となく操業と休止を繰り返してきました。世界規模で不況が深刻化し、蒸留所はオープンして間もなく操業を停止せざるをえませんでした。それでも、1907年から1910年頃までは蒸留所名をフォレスと改め操業を再開しましたが、再び休止に追い込まれます。第一次世界大戦後には生産を再開しますが、1983にとうとう閉鎖されてしまいました。

ゴードン&マクファイル社はスコットランドのエルギンを拠点とする、もっとも有名なインディペンデントボトラーです。1895年に創業した老舗で、まさに瓶詰業者の草分けだといえるでしょう。オフィシャルボトルのないレアなモルトも数多くボトリングしていて、ベンローマックのシングルモルトもかつてはゴードン&マクファイル社等のボトラーズが詰めたものしか飲めませんでした。その頃のベンローマックはかすかにスモーキーでドライ、そしてフルーティな熟成香が特徴的でした。長期熟成させたものには、熟した青りんごのような魅惑的な風味を放つものも見受けられましたね。

2008年には新しい蒸留設備で蒸留されたベンローマックの10年物が、満を持してリリースされました。個性的で複雑な風味は旧ベンローマックのキャラクターを受け継いでいるのですが、残念ながらバランスはもう一歩です。ゴードン&マクファイル社は熟成に関してはスペシャリストですし、今後の長期熟成ものには大いに期待したいものです。


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