Bowmore
アイラモルトの女王、「ボウモア」

ボウモアは「アイラモルトの女王」とも呼ばれ、多くのファンから熱烈に支持されているシングルモルトです。ピーティなモルトの産地として知られるアイラ島ですが、ブナハーブンやブルイックラディのように、ノンピーテッドもしくはライトピーテッドなウイスキー造りを基本スタンスとしている蒸留所もあります。その中でボウモアは中間的なキャラクターをもっていて、アイラモルトの全体像を把握するには最適なモルトだといえます。ボウモアの風味は甘辛のバランスがよくて、複雑に絡み合っている果実とスモークのハーモニーが持ち味です。比較的熟成が早く、若い熟成年数のものでもグレープフルーツやパパイヤ、マンゴーのような魅惑的な果実風味を放ちます。

ボウモアの創業は1779年。アイラ島の蒸留所の中ではもっとも古い歴史をもっていて、現存するスコットランドの蒸留所の中でも、1775年創業のグレンタレットに次いで2番目に古い蒸留所です。ボウモアは現在でも伝統的な製法を受け継ぎ、今日でもフロアモルティングを行っている数少ない蒸留所の一つです。また特筆すべきは、フロアモルティングで製麦した自家製麦芽の使用率が、他のどの蒸留所よりも高い点でしょう。

アイラ島の蒸留所は、キルホーマンを除いていずれもが海岸近くにあり、濃淡はありますが何らかの形で海との関わりを持っています。中でももっとも濃い関わりを持っているのがこのボウモアです。ここの1号熟成庫は波しぶきがかかるほどの場所に建てられていて、もっとも低い場所に寝かされている樽は、満潮時には海面よりも低くなるのです。ピーティなウイスキーに感じる潮風や海藻の香りに、波しぶきが関与しているというのはとても興味深い話ですよね。

ボウモア蒸留所は、1994年からは日本のサントリーによって運営されています。買収された年には、1964年ヴィンテージの記念ボトルがブラックボウモアの名で発売されました。29年間、オロロソシェリーの樽で寝かされたボウモアです。ウイスキーの色は正確には暗赤色なのですが、遠目には黒く見えるためそのように命名されたといわれています。風味はやや渋みが強く好き嫌いの分かれる仕上がりではありましたが、今日では大変なプレミアムがつき発売当初の30倍近い価格で取引されています。なお、2007年にはニューブラックボウモアが50万円でリリースされ、話題にもなりましたね。

シングルモルトの没個性化が心配される昨今ですが、ボウモアの他にはない個性は今後も失って欲しくないものです。


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