Coleburn
甘くまろやかな麦芽の香り、「コールバーン」

コールバーンは、とてもレアなスペイサイドモルトです。このシングルモルトの名前を、ご存じない方も多いかもしれません。オフィシャルボトルは一切発売されたことがありませんし、知名度の低さでは恐らく右に出る蒸留所はないでしょうね。ですが、ボトラーズ物は少量ながら出回っています。しかも、意外にも美味しいのが多いのです。またブレンデッドウイスキーの、スチュワーツやアッシャーズの原酒としてしても知られるシングルモルトです。ですが残念ながら、1985年に蒸留所は閉鎖されてしまいました。

コールバーンの風味には甘くまろやかな麦芽が感じられ、口に含むとするりと舌になじむ心地いいテクスチャーを楽しめます。ボディは軽いのですが、麦芽のニュアンスにふくよかさがあるため、甘みにも奥行きが感じられますね。実はコールバーンは、ウイスキー専門家や通にはあまり高く評価されていないシングルモルトなのです。ですが、ちょっと過小評価されているように私は感じています。

コールバーン蒸留所が創業されたのは1897年。テイ湾の北岸の町ダンディを拠点とするブレンド業者、ジョン・ロバートソン&サン社によって建造されました。建設地に選ばれたのが、エルギンとローゼスを結ぶ幹線道路A941のほぼ中間の地点。当時は近くに鉄道も通っていて、輸送面で地の利があったこともこの地を選んだ理由だといわれています。なおローゼスとエルギン間を走っていたこの鉄道は、1966年に廃線になってしまいました。

1950年代から60年代にかけて、この蒸留所では大規模な改修工事が行われました。1968年、リニューアルをきっかけに蒸留所名はコールバーン・グレンリヴェットと改められました。近頃はすっかりすたれてしまいましたが、かつては蒸留所名の末尾に「グレンリヴェット」をつけることが流行りました。当時有名だったグレンリヴェット蒸留所(のちのザ・グレンリヴェット)の人気にあやかろうとしたわけですね。コールバーン以外にも、アベラワー、ダフタウン、グレン・マレイ、ミルトンダフ、ピティヴェアック等々の蒸留所がグレンリヴェットを名乗り、19世紀末にその数は実に20近くまでのぼったそうです。そんな状況を揶揄して、「スコットランドでもっとも長い谷は、リヴェット谷だ。」 なんていうジョークまで生まれました。

コールバーンは、もしかしたら数年後には飲めなくなるかもしれません。もし見かけたら、ぜひ試しておきたいシングルモルトです。


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