Glen Mhor
甘く軽やかなクッキーの風味、「グレン・モール」

グレン・モールは軽やかな酒質と、焼きたてのクッキーのような風味が特徴的なハイランドモルトです。ウイスキーライターだった故マイケル・ジャクソン氏は、このシングルモルトの風味をまるで菓子屋のようだと表現していました。確かに休日の昼下がりにスイーツをつまみながら飲むには、ぴったりのウイスキーです。ただボディが軽いので、食後のデザートにするには、ちょっと物足りないかもしれませんね。あるいは就寝前に、読書をしながら飲むのにも適しているでしょう。

この蒸留所は残念ながら、1983年に閉鎖されてしまいました。その後すべての建物と設備は取り壊され、現在跡地には一大ショッピングセンターが建てられています。今日出回っている量はとても少なく、見かけたらぜひ飲んでおきたいシングルモルトの1つですね。スコットランドの北の玄関口とも呼ばれるインヴァネス市には、かつてたくさんの蒸留所がありました。しかし1745年以降この町のウイスキー産業は廃れ、20世紀にはとうとう3つにまで減ってしまいましたが、グレン・モールはその生き残った蒸留所うちのひとつです。他の2つの蒸留所、グレン・アルビンとミルバーンのシングルモルトもまだ流通していますが、入手は難しくなりつつあります。

創業は1892年。元グレン・アルビン蒸留所のマネージャーであり、インヴァネス市の市長でもあったジョン・バーニーが、チャールズ・マッキンレー社と共同で建造しました。立地はカレドニアン運河流域のネス川のほとりで、グレン・アルビン蒸留所からわずか90メートルほど離れた場所です。1920年にはグレン・アルビンを買収し、2つは姉妹蒸留所として運営されてきました。なお蒸留所名のグレン・モールはゲール語で、「大きな谷」や「偉大な谷」といった意味です。「mhor」は本来ヴォアと発音し、現在でも地元ではそのように発音することもあります。

「ハイランド・リバー」や「シルバー・ダーリン」などの著作で知られる、ハイランドの出身の作家ニール・ガン(1891-1973)。彼は文筆業に携わる前は、徴税官としてグレン・モール蒸留所で働いたことがありました。小説家や詩人でありながらウイスキーライターであったことでも知られ、「ウイスキー・アンド・スコットランド」というエッセイも書いています。彼はグレン・モールのシングルモルトを飲んで、ウイスキーの魅力に開眼したなんていうエピソードも残されていますね。


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