Glenesk
5つの名を持つ蒸留所、「グレネスク」

モルトファンでも、グレネスクという蒸留所名に馴染みのない方は多いかもしれません。もともとメジャーとはいい難い蒸留所でしたが、1992年に閉鎖されてしまい、今日ではますます入手が困難なシングルモルトになっています。かつては、ブレンデッドウイスキーのVAT69の核となる原酒でしたが、現在このブレンデッドにグレネスクは使用されていません。

グレネスクはすっきりと甘い麦の香りを放ち、かすかにピーティで、アペリティフにはぴったりのキャラクターに仕上がっています。また70年代に蒸留されたものには、ボディのしっかりしたものも見受けられ、こちらは食後にも楽しめますね。

この蒸留所には、ユニークな点が2つほどあります。その1つは、ある時期モルトウイスキーではなく、グレーンウイスキーを製造していたことです。モルトとグレーンとを並行して製造する蒸留所もそれほど多くはありませんが、蒸留器をそっくり入れ替えてしまったという例はさらに少なく、過去にも数えるほどしかありません。1938年にグレーンの製造を開始、1964年頃には廃止されました。その後は再度蒸留器を入れ替えて、モルトの生産を再開します。しかし1985年に操業を停止、蒸留設備のほとんどは撤去されてしまいました。同年に、精麦会社のポールズ・モルト社に売却されています。

2つ目は、蒸留所名が何度も替わった点ですね。創業当時はハイランド・エスクという名前でしたが、その後ノース・エスク、グレネスク、モントローズ、ヒルサイドと改名を重ね、1980年には再度グレネスクに変更されました。ここまで次々と名前が替わった蒸留所は、他に例がありません。ちなみにモントローズという蒸留所名だったのは、グレーンウイスキーを造っていたときです。

蒸留所だった場所は、東ハイランドのアンガス州ヒルサイド村。このあたりは世界的に有名な、アンガス牛の原産地としても知られていますね。そこから10キロメートルほど西には大聖堂で有名な古都ブレヒンがあり、厳かなたたずまいを見せています。また3キロ南に下ればリゾート地として有名なモントローズの町があり、2キロ東には北海の海岸があります。

グレネスクは希少なシングルモルトですが、今ならまだ見つけることはできます。ストックが尽きれば永遠に飲めなくなりますので、今のうちにぜひ飲んでおきたいモルトのひとつですね。


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