Inchgower
濃厚なショートブレッドの風味、「インチガワー」

インチガワーは、ブレンデッドウイスキーのベルのメイン原酒としても知られるスペイサイドモルトです。ベル以外にもホワイトホースやジョニーウォーカーの原酒としても使用されていて、シングルモルトとしてボトリングされるのは総生産量のわずか1パーセントだといわれています。かつては「花と動物」シリーズからオフィシャルボトルが出されていましたが、現在は残念ながら終売になっていますので、比較的レアなシングルモルトの一つだといえますね。ですがボトラーズものはちらほらと見かけますので、ぜひチェックしておきたいところです。

風味はスペイサイドらしい華やかさと、ショートブレッドやヌガーのような濃厚な甘さ、そして海風を思わせる潮っぽさが絶妙なハーモニーを奏でています。テクスチャーは比較的さらっとしていますが、ボディが厚くふくよかな余韻が長く後を引きます。長期熟成されたものは、熟した果実やクローブ、シナモン、タンニンなどが重なり合った複雑なアロマを放ちますね。

蒸留所があるのはバッキーという古い港町で、海岸から2キロメートルほど奥まったところ。蒸留所からはマレイ湾に面した漁港を見渡すことができます。2009年にエルギン北部にローザイル蒸留所ができるまでは、スペイサイドでは最も北に位置する蒸留所でした。「花と動物」シリーズのラベルにはミヤコドリのイラストが描かれていましたが、この鳥は英名でオイスターキャッチャーと呼ばれ、インチガワーと海との関連性を示唆しているのかもしれませんね。

創業は1871年。蒸留設備は、もともと8キロメートルほど東にあったトヒニール(Tochineal, 1825-1867)という蒸留所のものを移設しました。蒸留所をわざわざ移転した理由ですが、一つは慢性的な水不足の問題を解決するためだったといわれています。バッキー近辺は良質な水が豊富にあり、インチガワーでは仕込み水にメンダフ丘の湧水を利用しています。また当初ポットスティルは初留1基、再留1基の計2基が設置されていましたが、1966年の拡張工事で2基が追加され現在は計4基になっています。13棟の巨大なウェアハウスには60,000樽が貯蔵でき、インチガワーばかりでなく近隣の他の蒸留所のウイスキーも寝かされています。なお今日でもトヒニール蒸留所の跡地には建物が残されていて、農家の作業小屋や家畜小屋として使われているようです。


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