【5/26】

 前日とは一転して、今にも泣き出しそうな空である。26日の予定は朝9時半からカル・イラ蒸留所でのツアー、17時半からポート・エレン製麦所でのツアー、19時半からラムゼイ・ホールにてノージング・コンテスト、となっている。また、この日の晩から4日間はボウモア蒸留所のコテージに宿を移さなければならない。カル・イラでのツアー後の空き時間を利用して引越しを行なう予定だ。

 現地で辻丸氏と落ち合い、3人でカル・イラのツアーに参加。その後のテイスティングでは、新製品であるヒドゥン・モルト12年のテイスティング。えっ?これでおしまい?と拍子抜けするほどあっさりと、ツアーとテイスティングは終了。

 予定をしていなかった時間の余裕ができてしまったので、私達は急遽ジュラ行きを決行する。私達の車はアスケイグ港に止め、フェリーには辻丸氏の車1台を乗せてジュラ島に渡った。目的は鹿とジョージ・オーウェルの家である。まずは挨拶がてらに、アイル・オブ・ジュラ蒸留所に立ち寄った。マネージャーのマイケル・ヘッズ氏に、鹿の出没ポイントは?などと話を振ると、向こうに見える森のあたりに、もしかしたらいるかもとの返事。私達ははやる気持ちを抑えつつ、A846号を北上した。ところで、当たり前のことなのだが、如何に『鹿の島』と呼ばれようとも、人より鹿の方が多いという事実があろうとも、鹿はいるべき場所にしかいないのである。行けども行けども、鹿はいなかった。そんな状況を見るにつけ冷静さを取り戻し、まるで子供のようにはしゃいでいた自分に恥じ入る。かなりの距離を走り、あきらめの色も濃くなりかけた頃、突如鹿の大群に出くわした。すでに発見できない覚悟はできていただけに、その嬉しさはひとしおである。沈んでいた車内の空気は一変した。タイミングよく薄日も差し、とてもいい写真が撮れた。さあ、次はオーウェルの家だ。しかしここで、ジョージ・オーウェルの家までは、途中から歩かねばならないことが判明する。道ばたにいた農夫にどれくらい歩けばいいのか尋ねたところ、なんと7マイル(およそ11km)との返事で思わず絶句・・・。気をとり直し、取り合えず車道の終点まで行き、そこから引き返した。

 午後にまずすべきことは、マリナーズ・ホテルからボウモアのコテージへの引越しである。私達以外には宿泊客がいなかったため、幸運にも2部屋を借りることができた。とてもきれいなコテージである。今回の旅行の諸々のブッキングを世話してくださったのは、ボウモア蒸留所のクリスティーヌさんだ。挨拶も兼ね、お礼をしに彼女を訪ねたところ、とても熱い抱擁で迎えてくれた。

 ポート・エレンではツアーの途中で、嬉しいハンバーガーのサービスがあり、この後にあるノージング・コンテストに備えて腹ごしらえができた。コンテストの会場は、ポート・エレン製麦所から歩いて2〜3分の場所にあるラムゼイ・ホールである。このコンテストは、8種類のアイラ&ジュラ・モルト、そして2種類のニュー・ポット、計10種類のサンプルの正体を当てるというもの。もちろん味見をしてはいけない。色もわからないように、濃い色付きのグラスに入っている。使えるのは鼻と、第六感だけである。参加者は50人程度だっただろうか。国際色豊かで、会場内にはオリンピックさながらの熱気が漂っていた。なお辻丸氏は、カメラマンとして会場入りした。結果は、山岡氏が6つを当て、みごとに優勝。私は4つ正解で賞はいただけなかったが、山岡氏の優勝は自分のことのように嬉しかった。帰りがてら、マリナーズ・ホテルのバーに立ち寄り、看板まで祝杯を上げ、その後宿泊先のコテージに戻って3時過ぎまで酌み交わした。その後どうやって部屋まで戻ったのか、記憶に残っていない。

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